富士通研究所は8日、計算機上で新しいナノデバイスの正確な設計が可能となる、原子1,000個の電気特性シミュレーションに成功したことを発表した。従来に比べて数倍の原子数を計算できるようになったため、試作を繰り返す必要がないという。次世代のトランジスタ開発では、ナノ(10億分の1)単位のテクノロジーが活用されている。ナノスケールの世界では、原子のわずかな配置の違いがデバイスの電気特性に大きく影響する。正確な予測には、1つ1つの原子の振る舞いを正確に計算する「第一原理計算」による電気特性シミュレーションが利用されるが、第一原理計算は大規模な計算が必要なため、その適用は数100原子にとどまっており、ナノデバイスの設計に必要と考えられる原子1,000個規模の電気特性シミュレーションを実現することができなかった。今回、富士通研では、北陸先端科学技術大学院大学が開発した第一原理計算プログラムである「OpenMX」を利用し、原子1,000個の大規模な構造でも確実に電気特性の計算を可能にする技術を開発。原子レベルから物理性質を正確に計算できることを可能とした。さらに、大規模な計算を効率良く並列処理することで、ナノデバイスの設計に必要となる原子1,000個の電気特性シミュレーションを実現した。計算には、名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュータ「FX1システム」の3分の1(1,024コア)を利用し、効率の良いハイブリッド並列処理の導入により大規模なモデルの計算を可能とした。改良した第一原理計算プログラムとスパコンの利用を組み合わせて、原子1,000個規模のモデルの電気特性を約3日間で計算できるとのこと。すでに今回開発した技術を利用し、グラフェン電極とカーボンナノチューブを組み合わせた構造の中で、特定の構造の時の電気特性だけが、デバイス実現に望ましい「オーミック特性」となり、ナノチューブの長さや接合部分の構造により電気特性が大きく異なることが判明している。この予測は、経験的な手法や従来の限られた原子数の第一原理計算では得ることができなかったとされている。
今後は、ナノデバイスの電気特性シミュレーションだけでなく、原子レベルからの材料設計のシミュレーションなどについても、計算機上でより大規模な計算を効率的にできる技術を開発することを目指すとしている。